2017年6月10日(土)に、とこなめ焼DESIGN SCHOOLの最初のオープン講座が、陶の森資料館で行われました。今回は、DESIGN SCHOOL講師の城谷耕生さんに、「もの作りと地域デザイン」というテーマで講演をしていただきました。城谷さんが手がける数あるプロジェクトの中から、小石原、唐津、Buyeo(プヨ)でのもの作りの事例や城谷さんが拠点を構えている長崎県雲仙市小浜町でのまちづくりの事例を、細かな資料とともに紹介していただきました。


小石原プロジェクト

小石原(こいしわら)について

大分県との県境にある福岡県朝倉郡東峰村。小石原焼という400年近く続く焼き物の産地です。大分には小鹿田焼(おんたやき)という焼き物の産地があり、小鹿田は小石原から陶芸家が移って出来た産地なので、小石原がお兄さんで小鹿田が弟分という関係になります。その小石原には50軒ほど窯元があり日常使いの器をすべて手作りしており、特徴は飛び鉋(かんな)や刷毛目(はけめ)という装飾技法です。

陶芸家自身がデザインできるように

知人の紹介で4名の窯元の方々から、デザインの指導をしてほしいという依頼をいただきました。そこで小石原へ行きなぜそのような依頼をしたのか探っていくと、「景気が良かったときはずっと受注生産で、注文が来て作っての繰り返しだったが、注文が少なくなってくると何を作っていいかわからない、お客さんからリクエストをもらわないとモノをつくることができない。」と嘆く窯元の現状がありました。そのような中、僕がデザインをしてそれを作ってもらう。ということを行ったとしても、結局は新作を作る際は補助金などのお金に頼ってデザイナーを呼ぶことになり、問題の先送りを毎回行っているようなことになってしまうと思ったんですね。だったら、陶芸家自身がデザインをできるようになる指導をすればいいんじゃないかと考え、デザインとはどういうものかという経験をしてもらうワークショップを行うことになりました。その際に、九州大学の芸術工学部の先生とのご縁があり、その学生たちもプロジェクトに加わることになりました。学生はデザイン戦略学科だったので、スケッチしたりモノを作るというよりは、ものづくりのための社会的な背景や経済的な背景などを調査することが得意で。一方、職人たちは焼き物を作るのにいろいろ調査したり本を読んだりすることはなく、考えるより作ったほうが早いという感じだったので、お互い無いものを補うように一緒にしたらどうかいうことを考え、職人と学生と僕との三者でプロジェクトを進めることになりました。

リサーチがデザインの7,8割を占める

具体的に何を作ろうかと考えたときに、ここで売れる商品を作るというよりは、職人も学生も経験を積むことが大事だと考え、和食器よりも作り慣れていない洋食器で、パスタとコーヒーとサラダとデザートの皿を作ることにしました。そこからは、僕がデザインを依頼されたら、こういうふうに進めるだろうということをやってもらおうと思ったんですね。もしパスタの皿をデザインしてくれって言われたら、パスタの歴史をきちっと調べて、パスタが何なのかを調べるだろうと。一番やってはいけないと思っているのは、自らの人生の経験の中で食べたパスタを思い出したりして、ああパスタ皿ってこんなものだよなってことで、それが思い込みになって難しいとこにはまってしまうこと。まずは一番最初に戻れるところまで戻るようにしています。僕の場合、このような調査作業がデザインというものの7、8割を占めています。

パスタについてのリサーチ資料(一部抜粋)

また、小石原焼は手作りで大量生産には向かないため、業務用食器ではなく家庭用食器にすることになりました。そして家庭用食器の使われ方を知るために、友達がパスタを食べるときに呼んでもらって、それも調査してもらいました。パスタといっても、隣に味噌汁ととんかつと御飯があるかもしれないし、箸で食べてるかもしれない、フォークで食べてるかもしれない、意外とサラダとかパンとかオリーブオイルをやって、おしゃれな感じにしてるかもしれない。その実情がどうなのかを見てほしいということで調査しました。また、学生から出た意見が、なんで焼き物を作る必要があるのか、というテーマでした。よくよく考えてみると、100円ショップなどの雑貨屋にもいっぱいあるし、近所のスーパーに行ったらやきもの安売り市があったり、それこそ大量生産の窯元や問屋などのB級品の在庫倉庫を覗きに行ったら山積みになってるのが現状で、確かにそう言われたらそうだなって思うわけです。それで、そのテーマを確かめるために焼き物がどういう状態にあるのかを見てみようということで、各家族の食器棚を調査しました。そのなかで、どういう問題があって、使われる食器、使われない食器とか食器棚の内、何パーセントが自分が好きで買ったのか。ほとんどの食器が食パンの包装袋の角についてるシールを貯めてもらったものとか引き出物とかがほとんどで。だいたいがもう気に入ったものなんてひとつもない、流れ着いてここにきたんだってものしか実はなかったとか。そういうのを見てもらって、実際に現状を知っていきました。

もの作りの社会性

ものを作るときに大事なことがあって、それは社会的な道徳というか倫理的な問題というものです。どういうことかと言うと、作ったものがたくさん売れればいいということだではなくて。どれだけ社会の役に立つか、未来に繋がるようなもの作りになるのか。自分たちの食器を使うことでこういうふうに人の役に立つ可能性があるということを、少なくとも想定はしないといけないだろうと思います。話し合ってひとつテーマとしたのは「孤食」。ひとりでご飯を食べるという習慣を減らせるような食器をデザインしてみよう、ということでした。ご飯を食べるというのは、ただお腹がいっぱいになるだけじゃなくて、コミュニケーションをとったり、お腹が満たされるプラス心も満たしていくような時間であるべきなので、じゃあみんなでご飯を食べるという文化をもう一度取り戻すきっかけになれればいいんじゃないかということで、“TIMELESS & SHARE”という、みんなで食事をする楽しさ、喜び、重要性をもう一回呼び戻すようなコンセプトでやってみようということにしました。

形の模索

皿の形をどうしようかと話し合っていくなかで、焼成の温度も特別高くなく、欠けやすいから小石原の土だけだと薄いものができないと言って、若い人たちが有田の土とかを混ぜて、薄くてかっこいいものを作ろうとしてる風潮もあったので、それは違うんじゃないか、別に厚みが厚くてもそういうふうに見えるものができるんじゃないか、という提案をしていきました。また、大事だったのは、職人たちと一回一回打ち合わせしたものを学生たちがスケッチに描いてくれたんですよね。焼き物をやる人たちは、経験と勘でやって、窯に入れて出来たら、なんかへたってたり、歪んでたりしても何が原因なんだろう、ということをあまり解決法も知らずに、また次にやったりする人が多いなかで、何か問題があったり、失敗したらその原因を学生たちがメモに書いて、次にまた同じようなことがあったらそのメモを見直すことができるようにしてくれました。一方で、学生たちがマグカップの把手をどうやってつけるかわからないときは、こうやるんだよ、ということで職人が教えたり、学生と職人とでお互い分からないことを補い合い、教え合うことをしながら、釉薬を決めていったり、形を決めていったりしました。

轆轤(ろくろ)とノート轆轤(ろくろ)とノート

実際に完成した商品は、福岡のギャラリーと東京のミッドタウンのギャラリーで展覧会をやりました。そのときに研究したことをまとめた“轆轤(ろくろ)とノート”という大きなノートを作りました。上段がテーマで、下段が自分たちが研究していったものになります。大きなノートにしたのは、展覧会というのは、やはり楽しい要素がないと誰も見てくれないので、こう大きな巨人の本みたいなのをめくるだけでも楽しいかなと思って、このような形にしました。

小石原のプロジェクトの紹介は以上です。